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「未来のキッチン」シリーズ–米田肇シェフ Part 1

テクノロジーで外食産業に変革を

Gastronomy

December 12, 2022

「未来のキッチン」シリーズ

Sony AIは2020年に活動をスタートして以来、一流のシェフ達との対話を通じて、ガストロノミーの世界の課題やオポチュニティ、そしてAIやロボティクスの可能性についての理解を深めてきている。その中で、今回のシリーズでは、HAJIMEのオーナーシェフであり、Sony AIのアドバイザーでもある米田肇さんとの数回に及ぶインタビューからの学びを皆さんに紹介する。

Part 1Part 2Part 3

想像してみて欲しい。未知なるおいしさを追求しつつ、サステナブルかつ健康的な食の実現 を目指すシェフがAI企業のアドバイザーに就任していることを。その理想的なシェフはおそらく、その分野のリーダーであり、なおかつ膨大なテクノロジーの知識を備え、数々の料理や厨房での経験、業界を改革する情熱、他のシェフをサポートする意欲、地球に貢献する気持ち、それに加えて秀でた芸術的な感性さえも持っている。

大阪にあるレストラン「HAJIME」のオーナーシェフ、米田肇さんはまさにこれに当てはまる人物だ。米田シェフは、近畿大学理工学部電子工学科を卒業後、エンジニアとしてキャリアをスタートさせた。そして2008年、開店からわずか1年半でミシュランの3ツ星を獲得した。これは史上最速での星獲得記録となる。米田さんはシェフとして、多くを達成している。それでもなお、「もっとやりたい」という気持ちを抱いている。

米田さんのレストランは、今までに数えきれないほどの境界を打破してきた。例えば『地球』という一皿では、60cmのお皿の上に100種類を超える野菜を散りばめ、地球の成り立ちとその恵みを表現している。一品一品の料理に電気、化学、建築、さらには脳科学などといった多様な学問やテクノロジーの要素を取り入れている。その中でも米田さんのテクノロジーに対する深い情熱は、傑作を生みだすためだけでなく、「日本の外食産業に変革をもたらす手助けをしたい。」 という想いに根付いている。

米田さんの『地球』という作品(料理)には100種類を超える素材が使用されている。

米田さんは日本の外食産業は、慢性的な人手不足に陥っていることなど、構造的に大きな課題 を抱えていると考えている。特にコロナ禍で、日本だけではなく世界的にレストラン業界において人手不足が叫ばれているのが現状だ。その一方で、最近の統計によると、日本の外食産業の給与水準は少しずつ上がっており、コストに対する圧力が高まっていることが分かる。これは、多くの国と同様、日本においても、厳しい環境下で長時間労働を強いられる業界で優秀な人材を確保するために必要なことだが、外食産業の既に低い利益率に悪影響を及ぼしている。食材費も高騰していて、現状は厳しい。

「売り上げに対するFL比率(Food<食材原価>とLabor<人件費>を足した費用が占める割合 こと)の適正は55%とされます。」と米田さんは言う。「そのため、人件費は30%以内に抑える工夫が経営者には求められますが、料理やサービスのクオリティ維持を考えると、かなりハードルが高い数字です。」

米田さんは、AIやロボティクスなどのテクノロジーにはこうした構造的な問題を根本から変革する力があると考えている。労働条件を改善することで、優秀な人材を惹きつけ、確保することができる。また、単純な作業の負担を減らすことにより、シェフが付加価値の高い仕事に集中できるようになる。例えば、新しいセンシング・テクノロジーを使って、食材や料理の品質に関するデータやお客様の声を収集しシェフに届けることで、シェフはより質の高い料理をお客様に提供できる。こうしたデータに加えて、料理や科学的な様々なデータとAIを組み合わせることによって、料理の新たな切り口が生まれる。また、ロボットは技術の伝承、調理、衛生管理にも役立つ。

「調理を行うためには五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)の全てを極める必要があり、これまでに開発されていない様々な認識・センシング・ロボティクスの技術の研究開発が必要な領域と言えます。」

「シェフは建築家のようです」 – HAJIMEの厨房にて

そして、おそらく最も画期的なのは、テクノロジーがこの業界にもたらす構造的な変革である。例えばレストランにおける創造性やイノベーションを調理やサービスから切り離すことだ。建築業界では、図面を書く人と実際に工事を行う人とは別である。これが調理の世界でも当てはまるのではないか。

「言うなれば、建物のコンセプトを考え、スケッチを描いた建築家が、コンクリートを練ったり資材管理をしたり、現場監督をしたりといったことまでをやっているのが料理人です。私は常々、料理人は設計図のようなものを書き、研究をして、決まったものをデータ化する作業に集中し、それを、ロボットも含めてスタッフに作ってもらうことによって労働問題も軽減できるのではと思っています。」

米田さんは、このテクノロジーがシェフやレストラン経営者と調和し、業界が変化していくことを強く望んでいる。卓越したアーティストでもある米田さんがソニーAIのアドバイザーに就任した際、ロボット、AI、そして人間の調和を表現するために、以下のような絵を描いてくれた。

「この絵では人間の手とアンドロイドの手が、それぞれ『思いやり』を意味するレモンバームの葉を持っています。二つの力が互いに思いやることで、愛をつくるというイメージです。」

AIは「あい」とも読め、これは日本語で「愛」を意味する。米田さんは、人間とAIが一緒になることで、より持続可能な外食産業が実現できると考えている。

イラストに使われているハートは、米田さんの業界への希望を象徴している。日本語でAIは「あい」とも読め、「愛」を意味する。レストラン業界は大きな構造的な問題は抱えるものの、米田さんは人とテクノロジーとの調和による新しい価値の創造 に明るい未来の可能性を感じている。

次回のブログでは、センシング、AI、ロボティクスなどの新しいテクノロジーが、業界の有意義な改革を促進するための米田さんの考えについて、より深く掘り下げていく。

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